忘れられたリュート「マンドーラ」

(会報9号/2005年11月号掲載:英リュート協会会報記事の翻訳。セイス氏の講演記録に補足説明を加えて構成されたもの)

忘れられたリュート「マンドーラ」
骨折りせずに、18世紀リュート音楽へ

リンダ・セイス
訳:佐藤亜紀子

マンドーラ

以下の原稿は2003年9月13日に行われたイギリスリュート協会のミーティングで、リュート奏者リンダ・セイスさんが講演、 演奏したものの記録です。これはイギリスリュート協会の会報 「Lute News, The lute society magazine Number 67 (October 2003)」 に掲載されました。なお、訳するにあたってイギリスリュート協会、セイス氏の承諾を得ています。(訳者)

この小論の目的は、今日歴史的にも音楽的も無視されていたリュート属の楽器を概観することであり、そのリュートのためのレパートリーを紹介することである。ここに書かれているものは、私の独自の研究から得られたのではないことを強調しておかなけれ ばならない。これらはDonald GillやMartin Hodgson、最近ではPietoro ProsserやDierterKirschの研究に私のわずかなアイディアや推測を少し付け加えたものである。

私の唯一の目的は忘れられたリュート属の楽器に注意を促すことにある。たいていの弾き手は(少なくともイギリスにおいては)、ルネサンスリュートを弾く傾向にある。その理由のひとつは、イギリスに残っている多くのタブラチュアがルネサンスリュートのためのものだからである。私たちが、11、13コースリュートの世界へのあえて踏み出すことは、聴衆として以外は、かなり稀なことである。このことは言うまでもなく17世紀後半、18世紀のレパートリーが見過ごされているということを意味している。多くの人々が13コースリュートとその音楽にかかる費用、肉体的な要求によって意気消沈している。だから私はここで強調したい。18世紀のレパートリーを開拓するのに必ずしも13コースリュートを弾く必要はないのだと。

あなたを18世紀、さらには19世紀初期のリュート音楽へいざなう別のリュート属の楽器がある。18世紀のリュート音楽の多くが、特にドイツ、スイス、オーストリアの博物館に生き残っているが、これらは、いわゆる「バロックリュ―ト」と私たちが認識しているものと一致しない。典型的に見られるのは、6コースしかなく(8コースや9コースのものもあるが)、18世紀の半ばあるいは後半の日付が付いているものである。それらを学者達はマンドーラ(mandora)と歴史的に呼ばれているリュート属、或いは、gallichon、gallizona、colachon、calchedonoとして知られているリュート属と同一だとみなした。

マンドーラの全般的な特徴は、かなり長くて幅の狭いルネサンスリュートのようであること。ネックが比較的長く、たいてい10か11フレットがネック上にあり、それ以上のフレットはボディ上にある。たいていのマンドーラは折れ曲がったぺグボックスを持ち、トレブル・ライダーがついている。ほかにもヴィオールやミラノのマンドリンのようなS字型に曲がりくねったヘッドをもつものもあるが(写真の楽器を参照)

Teccher

S字型ヘッドを持つマンドーラMandora, David Tecchler Rome, 1707, Musée des Arts Décoratifs D.AD.32667

典型的にみられるのは、長くて幅広いリブでつくられたボディである。これは再び生き返えらせられたボローニャスタイルのリュートのデザインであり、バロックリュ―ト製作家のほとんどがこれに倣った。この楽器の大きさにしては、ローズがかなり小さいのが共通した特徴である。

現存している楽器で最長のものは、弦長78センチである。現存しているマンドーラの大多数は、大体2つの大きさに分けられる。1つはおよそ64~65センチのもの、もう一つは70センチ台前半のもの。これらの2つのグループに当てはまらないものも少数ある。いくつかの資料をみると(最古の2つの資料は別として、詳細は以下に)この楽器につけられた様々な名前はみな同義語で、かわるがわる使われていたということがわかる。マンドーラとgallichonという2つの名前に明らかな相関関係というものはないし、楽器のチューニングや楽器の指定によってそれぞれの名前を使い分けているわけでもない。

Dieter Kirschは数多くの様々な製作家による59台の現存する楽器のリストを作った。(以下、参考文献を参照、1998年のParis Lute Colloquiumの機関紙に掲載されている)興味深い点は、そのなかの多くの製作家が擦弦楽器製作家として知られていたが、ニ短調調弦のリュートを作ったことで知られている製作家はわずかしかいないということだ。

マンドーラ製作のピークは1740年代、1750年代であった。私たちがリュートの衰退期と普通みなしている時期である。もっともドイツ語圏の国ではリュートは最も遅くまで残ってはいたが。大半の楽器は古いリュートを改造したものではなく、新たに製作されたものだ。これは多くのニ短調調弦のバロックリュ―トが古いルネサンスリュートを改造して作られたという事実と照らし合わせると、いっそう際立ったことである。(ニ短調調弦のリュートには、古いリュートに似せて改造されたものもある。古いリュートは、年月を経て、長い間演奏された楽器がもっていると考えられ ていた音響的な特質で賞賛されていた)この古いイタリアのリュートのボディへの熱狂的な支持はマンドーラまでにはいたらなかったようである。

チューニングと弦の張り方

現在までに発見されているもので、gallichonaについての最古の記述は、1701年にプラハで出版されたJanowkaの音楽事典の項目で、彼は2つのチューニング、6コースと8コースの楽器を個々にあげている。両方とも最高弦は中央のCより下のAに調弦される(イタリアのテオルボのように、あるいはエリザベス朝のバンドーラのように)。これはこの楽器がかなり大きなものであることを示唆している。この記述は現在、オクスフォードのキリスト教会にあるTalbot手稿(1690年頃)に書かれている情報と一致する。また、18世紀の絵画にも多くの例があり、中でも最も有名なのものはTiepoloによるもので、これは大きな楽器で、比率的にかなり長いネック(ひとつのネックであり、延長されたネックではない)をもち、短く曲がったぺグボックスがついている。

これはJanowkaが詳述した大きな低い音域に調弦されるgallichonaと同一であるように思われる。しかし、その後Aで調弦される楽器は記録から消えてしまうようだ。Janowkaの記述ではマンドーラはGallichonaより4 度上のDに調弦されたと書かれている。それ以降18世紀には、かなりの音楽がEやDに調弦された6コースやそれ以上のコースをもつ楽器のために書かれた。この楽器はJanowkaのマンドーラの記述と同一のように思われる。このレパートリーの大半は、6コースしかないマンドーラのためのものである。このマンドーラの調弦は現代のギターと(あるいは再び、バンドーラと)と同様で、3度が2コースと3コースの間にある。よって最高弦がEのマンドーラでは、上から5コースまでが e’ 、b 、g 、d 、Aと調弦される、もし最高弦がDであれば、d’、a、f、c、 Gとなる。6コースはいろいろ変化する。5コースより全音低かったり、長3度下だったり、あるいは4度下だったりして、これは音程的には現在のクラシックギターと同じ調弦である。これら3通りの調弦で書かれたタブラチュアが現存している。

E調弦とD調弦が同時に存在していたということについては満足の行く説明がなされていない。弦長がおよそ65センチと72センチという2つの個々のグループは、この全音離れた調弦の個々の楽器にうまく対応する。しかしこれではこれらより大きな、またこれらよりも小さな楽器についての説明がつかない。また他のリュートと比べると、すべてのマンドーラは使われているピッチからするとむしろ小さめである。マンドーラの弦長は同じピッチの音を使うという点で、バロックギターに近いようだ。E調弦のバロックギターの典型的な弦長は66 ~68 センチで、D調弦のより大きなギターは70 センチ半ばまでになる、それとは対照的にリュートで、最高弦がe’やd’であるには少なくとも75 センチ以上はいるし、d’であれば80センチ以上は必要だろう。

これは弦の張り方へのアプローチがそれぞれ違うことを反映している。バロックギターにおいては、弦長の半分の位置で、弦をかき鳴らすことを容易にするために、よりきつめに弦を張る必要がある。一方、絵画や教則本で私たちが知っているように、また表面板のすりへり具合が示しているように、バロックリュートはブリッジに非常に近いところで演奏されており、そのためにはより弱めに弦を張ることが必要であった。それゆえ、おそらくマンドーラは、バロックギター同様、同時代のニ短調調弦のリュートよりはより強いテンションで弦が張られていた。

マンドーラは4コースまでオクターブで張られていたことが知られている。テンションの強い弦の張り方と同様にこれは、力強い音を生み出すようになる。6 コース或いは 8 コースしかないので、コース間はバロックリュートよりもずっと広い。だから、より力強く弾くことができる。13コースのバロックリュートのように、弦どうしがぶつかることを恐れて注意深く弾く必要はない。ライプチヒのバッハの前任者のヨハン・クーナウは 1704年に教会に一対のcolachon が必要だと書いている。彼は、この楽器を「リュートの一種ではあるが、その響きは浸透するもので、現代のあらゆるアンサンブルに必要なものである」と定義している。これはこの種のリュートの音の投影力を強調している数多くある記述のうちの一つである。この種のリュートはニ短調調弦のリュートよりも大きな音であるということは知られていた。これはテンションの強い弦を張り、4コースまでオクターブ弦を張り、弦間を広くとり、より力強い演奏を可能にしたこと、また弦の数が少ないことから表面版にかかる弦全体のテンションは低くなり、表面版がより自由に振動できるということから生じたことであろう。

2つの主要な調弦法(DとE)について考えられる説明が一つある。ドイツでは2つのピッチが標準的にあったという事実である。つまりコーアトーンとカンマートーンであるが、18世紀においてこれらは約1全音離れていた(訳者注)(この話題についてはいつも注意しなければならない。というのはピッチは土地によって様々な違いがあったからだ)。この証拠の一片となるのが、コーアトーンの楽器をカンマートーンの楽器と一緒にアンサンブルできるように(逆の場合もあり)、器楽のアンサンブルのパート譜を実際に全音上げたり、下げたりと移調していたことである。コーアトーンで合唱団と一緒に演奏するマンドーラは、疑いなくコンティヌオを演奏していただろう。コンティヌオを演奏するには、D調弦のマンドーラのほうがE調弦のものよりもずっと便利である。一つの理由として、これだと不等分律の調律法が使われているときに他の楽器と音程を合わせるのがより容易だからである。もっと大きな理由としては、D調弦のほうが楽器にあった調性が、はるかに便利なよく使われる調性だということである。E調弦ではシャープの多い調性が弾き易いが、それらはバロック時代には広くは使われなかった。ホ長調というシャープが 4つの調が基本の調性となっていては、フラットが2つの調を弾くことはかなり不便なことになる。D調弦の楽器はもっと使い勝手がよいし、当時もそのように認識されていたに違いない。E調弦のマンドーラは単に高いコーアトーンでD調弦の楽器だったのかもしれない。こうすればなぜE調弦の楽器についてかなり多くの記述があるのに、実際この調弦のための音楽が非常に少ないのかの説明がつく。

マンドーラの使用とレパートリー

上述したように、クーナウは教会音楽におけるコンティヌオ楽器としてのcolachonについて語っている。まさにコンティヌオがこの楽器の18世紀における主要な役割であったようだ。多くの現存している楽器や楽譜が、後にあげるレパートリーリストに見られるように、かつてマンドーラが使われたところである修道院、特に南ドイツ、オーストリアにいまだに残っている。だからもし18世紀ドイツの宗教曲のためのコンティヌオ楽器を探しているのであれば、colachonかマンドーラがまさに第一の選択候補となるべきだ。今日においては奇妙なことと思われるかもしれないが、当時はそうではなかった。このことをはっきりと確定するのが、テレマンの現存する1400曲ほどある教会カンタータのうち、498曲にcalchedonoのパートがあるということである。また唯一1曲だけにテオルボの指定があるが、これもcalchedonoの代用として明記されている。

これらのパートのテクスチュアは、バス譜表に数字のついたコンティヌオのパート譜か、かなり洗練されたオブリガートのパートである。チェロが4分音符で動いているときに、calchedonoはバスを装飾し、16分音符、さらには32分音符で動く。この楽器は明らかに、和音を演奏するコンティヌオ楽器であり、素早いバスラインを演奏する楽器であるとみなされていた。別の興味深い点はバッハである。数多くのリュート奏者がバッハのヨハネ受難曲の有名なリュートのオブリガートつきのアリアに取り組むことを求められている。これは変ホ長調であるが、これはニ短調調弦のリュートだと非常に低い音域にあたり、最も聞き取りにくい音域である。またこの曲には半音階的なバスにこのリュートにない音がでてくる。バロックリュートで弾くには都合の悪いものである。これらの問題はアーチリュートで弾いても、イタリアの、或いはドイツのテオルボで弾いても同様に生じる。しかしマンドーラの調弦の一つであった5コースと6コースの間を長3度にするものを使うと、6コースはE♭となる。残りの上5コースはD調弦(G、c、f、a、d’)である。バッハのオブリガートをこのように調弦されたマンドーラで演奏すれば、ほとんどが第1ポジションで、多くの開放弦を使って演奏できる。弾きにくかった曲の半分以上あらわれるE♭の持続音は、6コースの開放弦である。曲全体が楽器上での高音域にあり、もっとも聴きやすく、弾きやすい音域である(添付楽譜参照)。一考の価値あり!

Bach

J.S Bach BWV245 マンドーラ版


マンドーラには目立たないかもしれないが、ソロのタブラチュアで書かれている楽しいレパートリーが膨大にある。そのほとんどが非常に親しみやすい。最後にあるリレパートリーリストの大半をなしているのがこれらのソロ曲である。このレパートリーの主な魅力は、18 世紀の6コース、8コースリュートの魅力的なたくさんのレパートリーが開拓できることにある。

リンダさんはそれから、ブリュッセルの手稿譜(Brussels Conservatoire MS 5.619)から作曲者不明のプレリュード、アリア、メヌエット、トリオ、ジグを演奏しました。楽器はIvo Margheriniによる8コースのマンドーラです。

マンドーラのレパートリーは著名な作曲家によるものは少ないが、かなり多数のものがファクシミリで出版されている。最も知られているものはおそらく、ブレッシャネッロによる18のパルティータであろう。それは、ツェルボーニ社から出版された縮小されたファクシミリを伴ったギター編曲版として、ギタリストの間で古くから知られていた。ブレッシャネッロは興味深い人物である。彼はシュトゥットゥガルトで活動した。彼のパルティータは18世紀の第一級の室内楽と同水準とは言いがたいが、音楽的にかなり興味深い。

このあと、リンダさんはブレッシャネッロのパルティータ14番を演奏しました。

マンドーラには歌手と一緒に演奏したいと願う人々にとって、魅力的なレパートリーがある。もともとマンドーラのために書かれた曲や、マンドーラのために編曲されうるものがある。最後にあるレパートリーリストには数多くの歌曲が含まれている。注目すべきはEichstaettコレクションにある手稿譜で、これにはギターかマンドーラのためにと記されており、伴奏の部分はマンドーラのためにフランス式タブラチュアで書かれているものと、ギターのように一段の五線譜で書かれているものが平行に並んでいる。

この手稿譜には1818年と記されており、これは現存するマンドーラに関する日付のつけられている資料のうち最後のものである。Weyarn手稿譜には独唱とマンドーラ(タブラチュアで書かれている)のために編曲されたオペラやジングシュピールからのアリアがある。そのなかにはツームシュテークやフォン・ヴィンターやモーツァルトの作品がある。さらにはモーツァルトの有名な最高音が f ‘ ‘ ‘まで出てくる『魔笛』の夜の女王の「復讐のアリア」もある。だから、もしあなたがソプラノ歌手と6コースのリュートで何ができるのだろうかと日ごろ考えているのなら、選択肢はひとつである。すぐさま躊躇しないで、6コースリュートで試してみましょう。これは全く歴史的にも正しいことなのである。ただ、今日、この場でこのアリアをマンドーラと歌ってくれる歌手を見つけられなかったことについてはお詫び申し上げます。

先に述べたマンドーラの調弦のひとつは、実際ギターと同じ調弦である。このことから、ギター伴奏のために出版された初期のドイツリートをマンドーラで演奏する可能性もでてくる。これはさらに研究されなければならない領域であるが、この伝統が 19 世紀後期のドイツのワンダーフォーゲルリュートの伝統と結びついたのかもしれないという可能性がある。これに関連して、私は最近、リュートまたはギター伴奏のための歌のコレクションを偶然見つけた。Thomas Schumann のDer Lautenschläger(Leipzig, 1911)である。これには800曲以上の曲があり、伴奏はギター用の一段の五線譜で書かれている。他のギターのレパートリーと関係したものでは、最も後の時代まで活躍したことで広く知られているクリスティアン・ゴットリープ・シャイドラーの2つのソナタがある。

彼の作品に13コースリュートのための、ドン・ジョバンニのアリア に基づく変奏曲があり、彼がスワンネックのリュートをもった有名な肖像画がある。1812年頃にウィーンで出版された2 つのソナタは(これはシャントレル・エディションからファクシミリで出版されているが)、これらはギター用の記譜法で書かれている。しかしクラシックギターには稀なチューニングが要求されている。つまり、第6弦が5弦より全音低いのである。言うまでもなくこれは私たちが先にみたマンドーラによく見られた調弦法である。シャイドラーがマンドーラのことを知らなかったということは殆どありえないという事実、再考の価値あり……。

リンダさんはそのあとシャイドラーのソナタ1番からロンドを演奏しました。

要約すると、私たちがmandora、gallichona、calichonといっているものは一種のリュートで、この楽器には、ほとんどがテクニック的にはそれほど難しくはないが素敵なソロのレパートリーが膨大にあり、また大変興味深いデュオやトリオやカルテットとなどの室内楽のレパートリーもある。これらはニ短調調弦のリュートの室内楽のレパートリーに匹敵するものである。もっとも注目すべきはシッフェルホルツ作曲「 2 台のgallichoneのためのデュエット」と 「gallichonaとチェロのためのデュエット」、ドレスデンのコレクションでは、クネフェルレ作曲の「マンドーラとチェンバロのためのデュエット」、またベートーヴェンの師であったアルブレヒツヴェルガーの驚くべきコンチェルト、「マンドーラとジューズハープ、弦楽のためのコンチェルト」がある。

マンドーラは大変意義深いコンティヌオ楽器であり、テオルボよりも運ぶのが楽である! また使える調性の幅が広いし、音域も広い(テオルボよりも高い音域が演奏可能である)。マンドーラ伴奏の歌曲にも興味深いレパートリーが多く、リュートと歌とのために編曲できる曲も多くある。多くの現代の楽器製作家がマンドーラをさまざまな歴史的なモデルにもとづいて作っている。だから私は18世紀の音楽を演奏したい人々に強く勧めたい。13コースのバロックリュートのような扱いにくい、費用のかかる、難しい楽器に取り組むのではなく、この忘れられた楽器について一考することを。

次に一般的なディスカッションが続きます。リンダさんはマンドーラの長いネックが目一杯使われていたことを説明しました。いくつかのマンドーラのソロ曲では第7や第9ポジションが使われています。たいていのマンドーラが新しく作られた理由は、おそらく、古いリュートが非常に賞賛されていたので、たいへん高価であったこと、高価すぎて、むしろ実用的なコンティヌオ楽器とみなされていたであろう楽器に改造することが出来なかったのでしょう。そのかわりに古いリュートは11コースや13コースのニ短調調弦のリュート(明らかにより楽器として名声があった)のために使われました。それらのリュートにはより貴重な洗練されたソロの曲が書かれました。このことはマンドーラが社会的に認められていなかったということを言っているわけではありません。マンドーラは貴族たちによって演奏されていたし、いくつかの残っている手稿譜は貴族所有のものでした。音楽も13コースリュートに似ているものもありますが、おそらくそれらを演奏すること、聴くことは13コースリュートより容易であるようです。事実、これら2つの楽器のレパートリーは完全に別のものです。おそらく13コースリュートとマンドーラの両方のために書かれた曲で現存するものは、唯一1曲のみでしょう。マンドーラはときには“リュートもどき”のようにみなされていたようです。このことはリュートの文化のなかにも文化的なヒエラルキーや、上流階級気取りのようなものが存在していたことをほのめかしています。最後に言いたいのは、マンドーラは17、18、19世紀の数多くある忘れられた撥弦楽器のなかの一つにすぎません。どなたかドイツのシターンやスウェーデンのテオルボについて話したいですか?

A forgotten lute: a painless introduction to 18th century lute music
− Linda Sayce
Translation: Akiko Sato

(訳註)
クーナウのいた頃のライプチヒの「コーアトーン」、「カンマートーン」については、樋口隆一著「バッハカンタータ研究」(音楽ノ友社、昭和63年、pp.143ミ144)に詳しく出ています。それによれば、「コーアトーン」はオルガンのピッチ、「カンマートーン」は木管楽器のピッチで、カンマートーンのほうがコーアトーンより長2度低く、クーナウはオルガン以外の全ての楽器をすべてカンマートーンで記譜し、オルガンのパート譜を2度低く下げて記譜したそうです。E調弦のマンドーラはオルガンに合わせて調弦していたということでしょう。

Mandora / gallichon sources & short bibliography
Amberg, Staats und Stadtarchiv, MS 39 (RISM 5). Gallichon, 1730-40, Fr tab, 6c, 191pieces.
Augsburg, Staats und Stadt Bibliothek, Ms Tonkunst Schl. 290. 1740-M50, 6c mandora, Fr tab, 158ff.
– Ms Tonkunst Schl. 509. 1740-50, 6c mandora, Fr tab, 96ff.
Brno, Staatsarchiv. E6 Karton 498. Solo, 8c, 116 pieces. Not in RISM.
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Brno, Mahrisches Museum, D 189. Solo, early 18th C, Fr tab, 6c, 132 pieces inc. Logy.
– A 20.545. Voice & mandora, solos, mid 18th C, Fr tab, 27ff, 8c, 109 pieces.
– A 27.750. Solos, early 18th C, Fr tab, 6c mandora, 8c. 101ff, 208 pieces.
Brussels, Conservatoire, Ms Littera S.16,1662. 7c mandora, It gtr tab, 1612. (?)
– Ms 5.619. Fr tab, 6c mandora, 198 pieces, c1720?
-  Ms  Littera S:  No 15. 132. 1720- 35. Duet s  for  12c lute s  & 6c gallichons.  
Budapest, Nationalbibl. Ms. mus 2.551. 2 vns, jews harp, 8c mandora, basso. 4 pieces.
– Ms.mus 2.552. 2vns, va, jews harp, 8c mandora, basso. 3 pieces.
– Ms.mus 2.553. 2vns, jews harp, 8c mandora, basso. 5 pieces.
Donaueschingen, Fürst. Fürstenberfgische Hofbibliothek Ms mus 1272,1. Fr tab, 6c gallichon, 1735, 171ff.
Dresden, Sächsische Landesbibliothek, Musikabteilung, Ms Mus 2/V/5. c1740, Fr tab for 2 6c gallichons, fl, bass. Gallichon parts only. 4ff.
– Ms mus 2N/6. Sonate a due Gallichane. c1740, Fr tab, 6c, 14ff.
– Ms Mus 2/V/7. Duets for 2 6c mandoras, Fl, Vn, B. Fr tab, c1740.
– Ms Mus 2364/V/1 Brescianello, 6c, c1740-5, Fr tab, 60ff.
– Ms Mus 2364/V/2 Brescianello, 18 partitas. Fr tab, 6c, c1740, 80ff.
– Ms  Mus  2701/V/1 Tre  Se renat e  per  il  Gallichone  de  Duce Clemente di Baviera. 1735-40, Fr tab, 6c, 14ff.
– Ms Mus 2701/V/la Tre Serenate… Mid 18th C, Fr tab, 6c 14ff.
– Ms Mus 2806/V/1 Schiffelholz 6 duets for Gallichon & cello. c1740, Fr tab, 6c, 14ff.
– Ms Mus 2806/V/2 Schiffelholz 6 trios, 6c gallichon(s), vn(s), vc. c1740, Fr tab, 28ff.
– Ms Mus 2806/V/2a. Schiffelholz, trios, 2 gallichons or vns, vc. Mid 18th C, Fr tab, 28ff.
– Ms Mus 2806/V/3 Schiffelholz Parthie, 2 6c gallichons, 2 vns, vc. c1740, Fr tab, 8ff.
– Ms Mus 2806/V/4. Schiffelholz, 6 partitas, solo. 6c, c1740, Fr tab, 10ff.
– Ms Mus 2806/V/5 Gallichon duets, c.1740, Fr tab, 10ff, 6c.
– Handschriftenabteilung. Ms J.307m. Early 17th C, Fr tab, 68ff, 6c.
Eichstätt, Universitätsbibliothek, Sammlung Schlecht. Esl VI 91 formerly VII 29. 63 songs, voice & mandora.
– Esl 145 formerly VII 89. ‘Noten Buch Eichstätt 1818 für Guitare oder Mandora…’ 2 Fantasias by Zink, 44 songs for voice & mandora. Some concordances with Weyarn 692.
– Esl VI 403 formerly IX 85. For 2vn/mandoras, missing 2nd mandora pt. Zink.
– Esl VII 264 formerly IX 4, and Esl VIII 264 (from f  1). 48 solos, 2 vocal pieces by Mozart.
– Esl  VI 62 formerly XXXIII Z 21. Arias from Schermer ; ‘ Dier lateinische Bürgermeister’. Zink.
– Esl VI 99 formerly XII 101. Arias from Süssmayr ‘Sultan Wampum’ arr Zink.
– Esl VI 103. ‘Lob ber Farben’ (Müchler) arr J Zink.
– Esl VII 153 formerly VII 32. Song for mandora, Zink.
– Esl VII 164 formerly VII 39. Song by Zink, guitar notation.
– Esl VII 20 1 formerly VII 22. Staff  notation with tablature in bass.
– Esl VI I 52 formerly VII 26. Duets for 2 mandoras, song (2 voices) from W Müller ‘Das neue Sonntagskind’.
– Esl VI 162 formerly XXXIII Z 1. Voice plus 2 mandoras, 2vn, fl, bass. Zink.
– Esl  VIII 81, 2 formerly XXII S 2. Voi ce & 7 inst ruments; ‘ Der Mandorfiend’.
– Esl VI 151 formerly VII 54. Voice, 2vn, fl, mandora, 2 hrn, bass. Zink.
– Esl  VI 158 formerly VIII K 3. Voi ce & 8 i nst s;  Kne ferl e ‘ Der Mandorspötter’.
– Esl VIII 81 formerly XXII S 1/2. Voice & 11 insts; ‘Der Mandorfiend’.
– Esl VII 591 formerly XXXIII Z 25. Sonattina in g, Mandora & violin, Zink.
– Esl VIII 34 formerly VII K 8 (Cembalo) and Esl VIII 127 (mandora). 6 sonatas for mandora & harpsichord by Kneferle.
– Esl VIII 41 formerly VIII K 6. Kneferle, 6 Duetti for harpsichord & mandora.
– Esl VII 452 formerly IX 34. Sonata in C, mandora, vn, vc.
– Esl VIII 78 formerly VIII K 2. Trio primo (Kneferle) Fl Trav, vla, mandora.
– Esl VIII 540 formerly XXXIII Z 8. arr Zink. Trios for mandora, vn, bsn.
– Esl VIII 542 formerly XXXIII Z 4. Trios arr mandora, vn, bsn by Zink, from Müller, ‘Das Sonnenfest der Braminen’.
– Esl VIII 558 formerly XXXIII Z 7. Zink, Trio for mandora, vn, bsn.
– Esl VIII 545 formerly XXXIII Z 20. Zink Serenata, Mandora, fl, vn,bsn/vc. Identical with Weyarn 663.
– Esl VIII 546 formerly XXXIII Z 18. Zink Sonata in g, Mandora, vn, fl, vc.
– Esl VIII 547 formerly XXXIII Z 17. Zink Sonata 2 in g, Mandora, vn, fl, vc.
– Esl VIII 551 formerly XXXIII Z 16. Zink Sonata in f, Mandora, vn, fl, vc.
– Esl VIII 557 formerly XXXIII Z 5. Zink Sextetto inc Mandora.
– Esl VIII 29 formerly VIII K 7. Kneferle Parthita in Eb. 2ob, 2fl, 2cl, 2vla, 2hn, trpt, 2 bsn, mandora, contrabasso piccolo.
– Esl VIII 81, 3 formerly XXII S 514. Cantata ‘Mandora! Mandora!’ 15 insts, but no mandora!
– Esl VIII 81,4 formerly XXII S 415. Duetto der Mandora Fiend und Freund. Excl Mandora.
– fragment; wsm. Mandora part for trio in C. Zink.
– fragment, wsm. Mandora part for trios in F, Zink.
Freising, Diözesanmuseum, Wey 662. From Kloster Weyarn. J. Zink.
– Wey 663
– Wey 664
– Wey 682
– Wey 692.
Graz, Steierm, Landesarchiv, Hs. 1869. Solo, 6c, 1710-20, Fr tab, 65 ff, 186 pieces.
Hamburg, UB. ND VI 3242. Solos, 8c, 169 pieces.
Krakow, Mus Ms 40146 (formerly Berlin). 217 pieces, I 14 for solo mandora, others for mandora and violin, but violin part missing.
Kremsmünster, Stift. Fasc 50 Nr. 168. Solo, 9. 35 pieces.
– Fasc. 50 Nr 169. Vn, 6c mandora, basso. 7 pieces.
– Fasc 50, Nr 170. Vn, 6c mandora, basso. 11 pieces.
– Fasc 50, Nr 171. 2 vns, 6c mandora, basso. 6 pieces.
– Fasc 50, Nr 172. 2 vns, 9c mandora, basso. 5 pieces.
– Fasc 50, Nr 173. Vl, 8c mandora, basso. 4 pieces.
– Fasc 50, Nr 174. 2 vns, 6c mandora, basso. 6 pieces.
– Fasc 50, Nr 175. 2 vns, 8c mandora, basso. 4 pieces.
– Fasc 50, Nr 176. 2 vns, 6c mandora, basso. 5 pieces.
– Fasc 50, Nr 177. 2 vns, (fl), 6c mandora, basso. 3 pieces.
– Fasc 50, Nr 178. Vn, 9c mandora, basso. 4 pieces.
– Fasc 50, Nr 179. Vn (fl), 9c mandora, vc. 3 pieces.
– Fasc 50, Nr 180. Vn (fl), 9c mandora, Vc. 3 pieces.
– Fasc 50, Nr 181. Vn, 6c mandora, basso. 5 pieces.
– Fasc 50, Nr 183. Vn, (fl), 9c mandora, vc. 5 pieces.
Leipzig, Musikbibliothek der Stadt, Ms III. 12. 18. c1745, Fr tab, 6c, 47ff.
Linz, Studienbibliothek. Ms 569. Solos, mid 18th C, Fr tab, 6c, 12ff, 9 pieces. London, Royal Academy of Music, Spencer collection, no shelfmark. Fr tab, 66ff, ff. 38-41 for 6c mandora, cl720.
Lund, Universitetsbiblioteket, Handskriftsavdetsungen Ms Littera G.No 28. Fr tab, 112ff, 6c, c.1700.
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Marzani, Villa Lagrina, no shelfmark. Solo, 6c, 69 pieces.
Melk, Stift. No shelfmark. Vn, 6c mandora, vc. 4 pieces.
– No shelfmark. Vn, (fl), 6c mandora, basso. 3 pieces.
– No shelfmark. 2 mandoras, 6c. 3 pieces.
– VI 1836. Fl, (vn), 6c mandora, basso. 5 pieces.
– VI 1839. Fl, (vn), 6c mandora, basso. 5 pieces.
– VI 1840. Vn, (fl), 6c mandora, basso. 3 pieces.
– VI 1987. Vn, (fl), 6c mandora, basso. 8 pieces.
Metten, Archiv der Benediktiner-Abtei, ms mus, pract. Nr 90. For 2 gallichons & cello. Mid 18th C, Fr tab, 7ff, 6c.
– Ms mus. pract. Nr 91. For 6c Gallichon, 2vns, bass. Mid 18th C, Fr tab, 4ff.
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参考文献
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